死刑台のエレベーター

家にTVが来たことで、一番熱心に見たのは
やはり「日曜洋画劇場」だったかもしれない。

前に「サイコ」は書いたが、これもモノクロの映画。

「死刑台のエレベーター」(1958) フランス
  監督 ルイ・マル(これがデビュー作らしい)
  出演 ジャンヌ・モロー モーリス・ロネ

社長夫人のフロランス(ジャンヌ・モロー)は、
恋人のジュリアン(モーリス・ロネ)と共謀して
夫である社長を自殺に見せかけて殺すという
完全犯罪の計画を立てるが、社長を殺した
ジュリアンは、エレベーターに閉じ込められてしまう。

次々にアクシデントが起こる予想外の展開に
まだ中学生だった私は、まさに手に汗を握りながら
観ていたと思う。不倫という大人の事情が絡んだ
話だったけど、全然どろどろした印象がなくて、美
しい映画だと思えたのは、主演のジャンヌ・モロー
の理知的な意思の強そうな顔と、多分マイルス・
ディヴィスの音楽が作り出した洒落た雰囲気の
せいだったのだろう。

確かにジャンヌ・モローは、愛欲に狂ってダンナを
殺すような女性には見えない。けれど、約束の
時間に現れないジュリアンを探して、夜のパリを
さまようフロランスの表情には、恋人に会えない寂し
さや不安や、恋する女の顔がのぞく。いつも女性
らしい顔をしてる人にはない表情の変化だ。
とこれは、大人になって再見しての感想なのだが。
だからジャンヌ・モローだったのかなとも思う。

当時「サヨナラサヨナラ」とニギニギが人気だった
淀川長治さんが「ジャンヌ・モローが、警察から
釈放されて外に出た時に、車のボディーに自分の
顔を映す、あれ、悲しいですねぇ。切ないですねぇ」
みたいな話をしたのを、妙にはっきりと覚えている。

もう若くはない女性が、憔悴した自分の顔を気にする。
ほんの一瞬だが、女の性(さが)を象徴するシーン。
なるほど、映画にはそういう見方もあるのかということを
教えてもらった映画でもあったと思う。ストーリーだけを
追うのではなく、シーンを楽しむ。そのために、好きな
映画は、自然に何回も観るようになるものだ。

近年日本でもリメイク版が作られたが、これに限らず
リメイクとか、続編で、最初の鮮烈な印象を上書きできる
ような映画にはまだ出会ったことがないので、観ません。



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ヒッチャー

ヒッチャー(1986) 監督 ロバート・ハーモン
 
  C・トーマス・ハウエル ルトガー・ハウアー

大好きな俳優さんが出演した映画は、どうしても
高評価になってしまうのが人の常。「ヒッチャー」
も、もちろんルトガー・ハウアーというので、飛び
ついたが、そういうひいき目を抜きにしても、ホ
ラー映画の超傑作…だと思う。

1980年に「13日の金曜日」が大ヒットして、ホラー
映画は新しい時代を迎えたといってもいい。
もちろん「13金」も観たけれど、実は私は、残酷な
殺人のシーンとか、無残な死体がバンバン出てくる
から怖いとは思わない。生理的に気持ちが悪いと
いうのと、恐怖とは似ているがちょっと違う。

雨の夜の、砂漠のフリーウエイ。
ジム(C・トーマス・ハウエル)は、一人のヒッチハイ
カー(ルトガー・ハウアー)を自分の車に乗せる。
ところがその男、ジョン・ライダーは実は殺人鬼で
ジムをどこまでも、どこまでも追いかけてくる。

とこう書くと「13金」とあまり変わらなそうだが、ライ
ダーは直接ジムを襲うというよりも、彼の周囲にいる人
たちを容赦なく殺すことで、彼を恐怖に陥れ、孤立させ
てどんどん追い詰めていく。
ライダーとは何者なのか、目的は何なのか。
そして、なぜ狙われたのがジムなのか。

ジムは唯一の協力者であるウエイトレスのナッシュと
逃げようとするが、ナッシュはライダーに捕まり、トレ
ーラーに縛られてしまう。トレーラーに乗り込んだジムに
ライダーは銃を握らせてささやく。
「俺を止めろ」

ライダーは、血も涙もない無機質な殺人マシーン
ではない…と思わせるのは、やっぱりルトガー・
ハウアーだからか。人を殺すことでしか、他者と
関わることができないライダーが見つけた、たった
一つの人との「つながり」。それは、どんな手段を
使っても、ジムに自分を殺させること。そこには
微かにだけど、悲哀さえ感じさせるものがある。
が、それも観る人次第というところだろう。

ルトガー・ハウアーに何の思い入れもない人が
観たら、たぶんただの完全に気の狂った殺人鬼
にしか見えないかもしれない。そして、結局何ひとつ
謎は解けないまま、やっとライダーがジムに撃たれて
映画は終わる。もしトレーラーのシーンで、ジム
がライダーを殺して、めでたくナッシュを助け出して
いたら、ここまで感動しなかったかも。

すでに指摘されているように、いっぱい人が殺される
のに、死体のシーンはほとんどない。それでも十分
怖い。怖いけど、終盤なぜかライダーに感情移入してしまう。
やっぱりルトガー・ハウアーの、あの眼の魔力か?

一切のむだな説明を排除して
すべての定番の展開を捨てて
観る人の五感を直撃する恐怖。それが「ヒッチャー」
「心臓急停止」のキャッチコピーに偽りなし。





怪奇大作戦

話が前後するが、中学に入学すると
やっと我が家にもTVが来た。
長年おあずけを食った反動で
最初は何でもかんでも観ていたように思うが
すでに自分の好みが定まっていたので
じきに「これっ」と思うものを観るようになった。

もとより細かいストーリーは忘れているが
毎週必ず観ていたドラマの一つが「怪奇大作戦」
放送はS43年~S44年にかけて。
製作が「ウルトラマン」の円谷プロで
毎回起きるオカルティックな難事件を
SRIが科学捜査で解決するという
ホラーとSFを合体させたような仕様だったが
あまり子ども向けとも思えない
陰鬱な雰囲気が、とても斬新だった。

出演は勝呂誉、岸田森、松山省二など。
探してみたら、動画サイトにもUPされている。
そして岸田森が若い!感動した!
結構エグい殺人シーンなんかもあったが
当時はわりとそのへんはユルかった。

DVDなどソフト化に当たって、24話の
「狂鬼人間」が内容的に問題ありなのか
収録されておらず、永久欠番状態なのも
ある意味ミステリアスといえばミステリアス。

まだ家にTVがなかった頃に
「ショック」というアメリカのドラマが放送されていて
友だちが「恐かった~」と盛り上がっているのを
ひとり「いいなぁ」「観たいなぁ」と心の中で
死ぬほど羨ましく思っていたのも、切ない思い出。
ビデオなんかもなかった時代だから
この「ショック」はついに観れずに終わったが
どうやらホラー映画の人気作品を
60分のTV版に編集し直したものであったらしい。

霧の旗

高校を卒業して働き始めてからは
いわゆる純文学と呼ばれるような小説は
ほとんど読まなくなった。

代わりに読み始めたのが
松本清朝の推理小説。
松本清朝の作品は、映画化もされたし
当時から度々ドラマにもなっていた。

その松本清朝の作品の中でも
一番好きなのが「霧の旗」

殺人の罪で逮捕された兄の無実を
確信する柳田桐子は
高名な弁護士の大塚欽三を頼って
弁護を依頼するが断られて兄は獄死する。
そして桐子の壮絶な復讐が始まる。

この話、実はかなり理不尽な話なのだ。
大塚欽三は日本でも有数の弁護士で
当然弁護料も高額。
桐子には弁護料を払えるようなお金はない。

常識的に考えたら、彼が弁護を引き受ける
はずもないし、引き受けなかったからといって
ここまで恨まれるような筋合いの話ではないのだ。

しかしそんな理屈や常識は、桐子には通じない。
まさに「そこまでやるか」というくらい
徹底的に、完膚なきまでの復讐を果たす。
つい先日も、大竹しのぶさんが桐子を演じた
「霧の旗」が再放送されていたが
原作とは結末が違っていて
「およよ」という感じだった。
最近の堀北真希さんの「霧の旗」も
やっぱり結末が変えてあった。

桐子は大塚からすべてを奪う。
地位も名誉も、愛する人も、何もかも。
「そりゃあ、やりすぎやろう」というくらい
徹底しているのだけれど
だからこそ「霧の旗」は突き抜けた凄さがある。
やり過ぎだからこそ、現実の社会では
不可能だからこそ、すかっとする。
読み終えたらぐったりするくらい緊迫感がある。
そのラストを骨抜きにして
「桐子さんはいい人になりました」みたいにしたら
ダメじゃん。

映画やドラマになった数々の「霧の旗」の中で
最もインパクトがあったのが、三國連太郎さんが
演じた大塚欽三で、この時の桐子は
栗原小巻さんだったようだ。
当時は原作には忠実にドラマ化されていたと
思うんだけどなあ。

プロフィール

田中偲

Author:田中偲
50年以上映画を見続けてきた、でもただのミーハーな映画好きの、備忘録的感想文

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