神の火

今公開されている、東野圭吾さんの「天空の蜂」
が1975年に書かれた小説であることに驚き
「福島の事故を予見している」的なコメントもあるが
高村薫さんの「神の火」が出版されたのは1972年。

高村さんや東野さんがこの時期原発を描くことに
取り組まれた最大の原因は1986年に起きた
ソ連のチェルノブイリの原子力発電所事故だったのだ
と思う。

母親の不貞が原因で、ロシア人を父に持ち、優秀な
原子力の科学者でありながら、ロシアのスパイとして
生きてきた島田。
幼くて親を失い、やくざと紙一重の、荒くれた世渡り
をしながらも、自力で生き抜いてきた日野。

日野の妻律子の兄柳瀬祐司もまた優れた原子力
科学者だったが、<北>に行って、原発に関する
資料を持ち帰ったことが原因で殺される。
そしてチェルノブイリで事故に合い、余命わずかな
良と名乗るロシア人の青年が現れて、島田と日野
は、ロシア、アメリカ、日本、北朝鮮が入り乱れて
の、原子力を巡る政治とエージェントたちの争いに
巻き込まれていくことになる。

日野は言う。
「あいつ(柳瀬)は、人を死なせたらあかんと思うから
《超安全》な原発を作らなあかんて言うとった男や。
俺が柳瀬に借りたんは、小さな希望一つや、人間
には理想というものがある。人間は、理想を持つ
ことの出来る動物や、という希望一つ……」

その日野と島田は、良の死を契機に、音海の原子力
発電所の襲撃へ疾走し始める。テロが可能な原発は
安全な原発ではないことを証明するために。

<安全>と言い続けた日本の原子力政策への
逆説的な警告とも受け取れるストーリーだけど
高村さんの初期の作品は、理屈抜きにとにかく
過激なので、批判的な人もいるだろうし
こういうのが嫌いな人にはドン引きされそう。

理想というのは、人間の理性によって考えうる最善を
指すのだという。それは案外、いかにももっともらしい
言葉とか、思想とか、行動の中にあるのではなく
その純粋さと揺るぎのなさのせいで
一見とても愚かに見える行為の中にあるのかもしれ
ないと、ちょっと思ったりする。

「神の火」は、私が読んだ高村薫さんの最初の本です。
それ以降「冷血」まで、ほぼ全ての高村作品を読みました。
「神の火」や「マークスの山」はハードカバーも文庫も。
「神の火」は、もしも読むなら文庫版がおすすめ。
でも映像化されたものは、映画もドラマもほぼ全滅でした。
どれもキャスティングが納得できない。
まあ「神の火」が映像化されることは絶対ないはずなので
そこは安心しています。



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コンスタンティン

少し前に地上波で放送されたのを
さわりだけ観て「これ、意外といいかも」と思ってしまった
悪魔フェチは相変わらずです。
でもあちこちぶったぎられたのを
観るのはいやなので
改めてケーブルのオンデマンドで鑑賞。
原作はアメリカンコミックらしい。

コンスタンティン(2005)
  監督 フランシス・ローレンス
  主演 キアヌ・リーブス

この世界は、天界、人間界、地獄界に別れていて
天使も悪魔も人間界には入れない。
代わりに天界からも地獄界からも
ハーフブリードという、人間に姿を変えることができる
亜種みたいな連中が紛れ込んでくる。

コンスタンティン(キアヌ・リーブス)は、訳あって
地獄からやってくる、そのハーフブリードたちを
地獄へ強制送還するのを仕事にしている。

ところが運命の槍(ロンギヌスの槍)を手に入れた
サタン(ルシファー)の息子が、霊感を持つ女性の体を
乗っ取って、人間界に進出しようと企て…

敬虔なキリスト教徒の人は、きっと眉をひそめて
おられるんだろうけど
近年映画で描かれるキリスト教世界は
すごく人間くさくて、ゆるゆるで、やりたい放題の観がある。
でも、その自由さがあるから、天使や悪魔が
小説とか映画とか漫画とか、ゲームに至るまで
色んなところで、魅力的な人気キャラになるのも分かる。

「コンスタンティン」でも、天界のハーフブリード
ガブリエルの、バイセクシャルなキャラがステキでした。
でもコンスタンティンにコテンパにやられて
最後はぼろぼろになってましたけど。

そしてルシファーが中小企業の社長さんタイプで
出来の悪い息子の行状に怒ってという
単なる家庭内トラブルみたいな展開も
結構面白い。
(ピーター・ストーメアさんごめんなさい。
「ブラックリスト」のベルリンさんだったんですね。
おみそれしました)
ホラーというより、うんと軽めの
ダーク・ファンタジーといった趣の映画で
エンドロール後のラストシーンにしても
ん、これはギャグなのかとも思いましたけど
キアヌ・リーブスは細身のイケメンですし
それなりに楽しめました!



回路

一般的なホラーとは一味違うけど
私の好みでは、一番好きなホラー映画。

回路(2001) 監督・脚本 黒沢清
          出演 麻生久美子・加藤晴彦・小雪

ミチ(麻生久美子)は観葉植物を売る会社の社員。
ある日、同僚の田口が原因不明のまま自殺をし、
ミチの周辺では、次々に不可解なことが起こり始める。
大学生の亮介(加藤晴彦)は、パソコンでインターネット
を始めようとするが、いきなり「幽霊に会いたいですか」
という気味の悪いサイトにつながってしまう。パソコン初
心者の亮介は、工学部でパソコンに詳しい春江(小雪)
と出会い、彼女に好意を寄せるが…。

世界はどんどん変容していく。会社が、街が、大学が
電車が無人になり、やがて飛行機がミチや亮介の
目の前で墜落していく。

種明かしはわりと簡単だ。
春江の先輩の大学院生が言う。
「馬鹿みたいなことで、その装置は完成した。
向こう側の世界が飽和状態になって、死者の
意識はこちらのエリアに進出した」

こういう考え方自体は、ブードゥー教にもあって
いわゆる「ゾンビ」は地獄から溢れ出した死者たち
だという話は映画の「ゾンビ」にもあった。

けれど「回路」の死者たちは、別に積極的に生者に
襲いかかってくるわけではない。
「回路」では、ある日何となくつながってしまった回路
を媒介して、向こう側の世界がどんどん現実の世界
を侵食してくる。全ての境界があいまいになって、最
終的には死が全てをおおいつくすのか、否かで終わる。

スマホも携帯も、テレビもパソコンも、私たちが現実
だと思っている世界は、すべてとんでもなくあやふや
で危うい。

天災や原発事故だけでなく、いつ空から飛行機が
降ってくるかもしれず、隣人や、電車で隣に座った人
が殺人鬼かもしれず、走っている車を運転してるのが
「シェシェシェー」男かも、あるいは逆走車に出会うかも
と想像すれば、この世界は不安と恐怖に満ちている。
そりゃあ死者だって、普通にその辺にいくらでも徘徊
しているだろうし、原因は分からないけどいずれ人類が
絶滅することだってあるだろう。回路はとっくの昔につな
がっている。赤いテープで、フレームを作りさえすれば
それはどこにでも出現する。

世界が、社会がそういうものだと感じている人間には
「回路」はすんなりと受け入れることも、納得もできる
そんな映画なのだ。でも「いや、こんなもやもやしたのじゃ
分からないよ。面白くないよ」という人には、映画的には
貞子さんや伽椰子さんといった大スターが活躍する
「リング」や「呪怨」のほうがオススメです。

パレード

吉田修一さんは、わりと好きな作家さんだ。
つい最近も「怒り」(上・下)を読んだ。
「悪人」や「怒り」短編では「女たちは二度遊ぶ」
なんかは面白かった。
でも「東京湾景」とか「さよなら渓谷」は、今ひとつ
共感できなかった。作品次第という感じだ。
映画やTVなどで、映像化されることも多い。

パレード(2010)
監督 行定勲
出演 藤原竜也 小出恵介 林遺都etc

映画を観たのはかなり前だ。そして映画を観たので
何となく分かった気になって、原作を読んでおらず
最近読んだ。

東京の2LDKのマンションで、ルームシェアをしている
年齢も、仕事や境遇もまるでばらばらな四人の男女。
ルームシェアといっても、要はその部屋の主である
映画配給会社で働く直樹のところに、何だかよく
分からない流れで、他の3人が転がり込んでいる
という奇妙な設定。そこにさらに、得体のしれない
少年サトルが加わる。

隣室には女子高生に売春をあっせんしているのでは
と疑われる怪しい人物が住み、近所では女性を
狙った連続暴行事件が起きている。

映画ではそのミステリーの要素が、わりに大きく
扱われていた。犯人は誰かというところに興味
を持たせるような作り方になっていたのだ。
同居している5人の男女には、恋愛とか友情とかの
濃密な人間関係がないから、これは仕方がないか。

今回原作を読んでみて「これの映像化って、結構
難しいよな」と改めて思った。
実際に起きる出来事は皮相的なもので、それぞれの
気持ちがすべての本質なんだけど、比較的分かり
やすいのは大学生の良助と、アイドル俳優の隠れ
恋人をやってる琴美くらいで、あとの3人は、もの
すごく屈折してる。

原作は、即物的な日常会話や動作や表情では
とても表現しきれない複雑な心理描写が多い。
だからラストシーンの意味がよく分らないと言われる
のも仕方がないかなと思う。
何しろ登場人物(未来)自身が「分からない」という
くらいだから、読者や観客に分かるはずもない。
ただ常識とか、道徳とかの社会通念だけで
映画や小説を評価したらつまらなくなる。

彼らの気持ちに共感できないという批判もあるが
そもそも思いと行動が、思い切りばらばらな
5人の行為や会話に感動できる要素はない。
でも今の時代に、感動させない話を作るって
意外にすごいことだ。
だからこの小説を映像化しようと思った勇気に拍手(笑)



プロフィール

田中偲

Author:田中偲
50年以上映画を見続けてきた、でもただのミーハーな映画好きの、備忘録的感想文

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