OUT

桐野夏生原作の「OUT」
ドラマにもなったし、映画化もされた。

深夜の弁当工場でパートをしている四人の主婦。
香取雅子は、息子の問題を抱え、夫との関係も
うまくいっていない。ヨシエは、夫と死別し、姑の
介護と高校生の娘を抱え、経済的に困窮している。
そんな折、同僚の弥生が、ギャンブル依存症でDV
の夫を絞殺し、その死体の処理を雅子が引き受けた
ことで、彼女たちは引き返すことができない犯罪の
泥沼に引きずり込まれていく。

誰もが不本意な人生を生きなければならず、しかも
どれだけ我慢をしても、安心して生活できるだけの
経済的な見返りは得られない。二十年近く昔に書かれた
小説だが、教育の荒廃、親の介護、ギャンブル依存症
職場のパワハラ、外国人労働者問題、そして闇カジノ。
現在進行形で、日本の社会が抱えているあらゆる問題が
凝縮されている。

それが、興味本位の猟奇趣味を売り物にする小説とは
明確に一線を画する、論理性と凄みを与えていると思う。
奥田英朗さんの作品とも共通点が多いが、女性の視点
で書かれているだけに、より共感できるところが多い。

完全犯罪を目指した計画は、思わぬところから破綻し
バラバラ事件の真相を、知られてはいけない相手に
知られたことから、雅子たちは、死体処理ビジネスを
請け負う羽目に。

極めて聡明で冷静な雅子がなぜ、と読んでいて疑問に
感じる人もいるだろうが、たとえどんな無謀で危険な
手段に訴えても、今いる閉塞的な世界から抜け出したい
と願い、抜け出してみせると決意し、そして実行した雅子
の気持ちは、十分に理解できる。実際ある時期「OUT」は
私のバイブルだったこともある。もちろん現実には、こん
なことはするべきじゃないが、こういう気持ちでなければ
立ち向かえないことのほうが多すぎるのだ。

後半は、いくぶんエンターテイメントになりすぎて
前半の、ガチガチの緊張感がゆるんでしまったのは残念。

そして、彼女たちの気持ちがまったく分からない
こんな陰惨で絶望的な小説を書く意味が分からないという人は
今の社会の中で、ある程度恵まれた幸せな人生を
生きてきた人なんじゃないかなと
決して皮肉ではなく思えます。映画は未見。

ドラマは、雅子を演じた田中美佐子さん、ヨシエを演じた
渡辺えりさんがはまり役、柄本明さんの怪演が楽しめ
TVの限界はあったものの、かなり面白かったです。





スポンサーサイト

ピエロがお前を嘲笑う

何気なくケーブルオンデマンドを検索していたら
知らない間にしれ~と入ってた。
「もぉ~、言ってくれなきゃいや~ん」と身悶えしましたが
ドラマと同様に、映画もヨーロッパの作品は扱いが地味だ。
映画館で観たかったのだが、上映館も少なく、回数も
すぐに少なくなるので、とうとう観れなかった。
なので、小躍りして、すぐさま鑑賞。

「ピエロがお前を嘲笑う」(2014) ドイツ
  監督 バラン・ボー・オダー

ハッカー集団CLAYのメンバーで、殺人の罪で追われて
いるベンヤミン(トム・シリング)が警察に出頭する。

青少年期を通じて誰にも相手にされず、いじめの対象
にさえならなかった彼は、自らを透明な存在と言う。
けれどスーパーヒーローになりたかったベンヤミンは
MRXという伝説のハッカーに憧れ、ハッキングの技術を
身につけるうちに、マックス(エリアス・ムバレク)という
野心家でパワフルな男のグループに出会い
彼らとハッカー集団CLAYを結成する。
しかし、彼らはやがてとんでもない事態を引き起こし
ついにユーロポールから追われる羽目に。

映画は8割がた、ベンヤミンの独白、彼の言葉を
映像化していくという作りになっている。

想いを寄せる女の子に好かれたい
伝説のハッカーに、自分たちの存在を認めてほしい
スーパーヒーローになりたい

若者らしい、他愛もない願望。
マインド・ファック・ムービーと呼ばれる、ラストの
ドンデンは「シックス・センス」や「ファイトクラブ」と
同質だとも指摘されているが、私は雰囲気が
「ソーシャル・ネットワーク」とも似ているように思えた。

これもある意味、若者の成長物語。
しかも、とても後味がいい。
それはたぶん一見厳格でクールに見える
ユーロポールの女性捜査官のキャラクターと
彼女の言動が大きいのだと思う。

伝説のハッカーとか、ハッカー集団のコミュニティとか
いかにも現代風の素材だが、映像にはどこか
アナログさを感じさせるところも多い。
やはり長い歴史を誇るヨーロッパの文化的風土の賜物
なのか。

丁寧に映画を観ている方には、言うほど意外性のある展開
ではなかったという評もあるが、私のような、緻密じゃない
頭の持ち主は、騙されっぱなしでも、面白ければ、そして
映画のテンポや雰囲気がよければ「いい映画だったなあ」と
思えるので、かなりの良作ではありました。

キツツキと雨

この前「モヒカン故郷へ帰る」を観てきた。
「じゃあ、それを書けよ」と怒られそうだが
実は「南極料理人」が、すごく面白くて
それで「モヒカン~」を観に行って
沖田修一監督とは相性がいいのだと確信し
録画していた「キツツキと雨」を観た。

妻に先立たれて息子の浩一(高良健吾)と暮らす
克彦(役所広司)は、森林伐採(木こり?)の仕事
をしているが、ひょんなことから、映画の撮影隊と
関わることになる。オタクで、気弱で、ダメダメな
新人監督の幸一(小栗旬)に苛立つ克彦だが
彼は次第に、映画作りの面白さに目覚め、全力で
幸一を応援する羽目に…。

しかし、この撮影隊が撮っている映画というのが
「桐島部活やめるってよ」と同じく、またもやゾンビ映画。
「いったいゾンビ映画の何がそんなに?」と思ったが
考えつく答えはただひとつ「低予算だから」

しかも、この映画、いたるところで
「今映画を作っている現場がどれだけお金に困っているか」を
こっそりアピールしまくっている。
大勢のゾンビが襲ってくる設定なのに、エキストラが
わずか数人というショボすぎる現実を知って、克彦が奮起。
駅員さんから、村人まで、村中総出でゾンビメイクしての
友情出演という展開には、映画好きの端くれとしては
もう拍手喝采するしかない。

しかも実力派俳優のNO.1とも言える役所広司さんが
作業着のままで、ゾンビメイクされて、演技指導をされてる
場面なんかは、もう面白すぎる。
克彦の、損得を省みない、熱すぎる言動に影響されて
最初は、監督のくせに、現場を放棄してトンズラしようと
までした幸一が、ラストでは、ほんのちょっとだけ監督
らしくなっているという、変なわざとらしさがない、若者の
成長物語でもあった。

それにしても、かつては、映画監督は、天皇様並みに偉い
(黒澤明監督とか)と言われていたのに、最近の映画の現場
はこうなのかと、かなりなカルチャーショックを受けました。
日本映画、大丈夫なのか?
なら、もうちょっと映画館へ行けよという話ではあるのですが。


プロフィール

田中偲

Author:田中偲
50年以上映画を見続けてきた、でもただのミーハーな映画好きの、備忘録的感想文

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
フリーエリア
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
フリーエリア
amazon
アクセスランキング
[ジャンルランキング]
映画
989位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
レビュー
454位
アクセスランキングを見る>>
フリーエリア