葛城事件

封切りの時から気になっていた映画だったので
「葛城事件」を、オンデマンドで鑑賞。

監督 赤堀雅秋
出演 三浦友和 南果歩 新井浩文 若葉竜也 田中麗奈

親から受け継いだ小さな金物屋を営む葛城清(三浦友和)は
マイホームを建て、妻(南果歩)と、長男保(新井浩文)
次男稔(若葉竜也)を育ててきたが、支配的、高圧的な清の
もとで、内向的な保は会社をリストラされ、妻子を残して自殺。
父親に反抗した次男は、引きこもりになり、無差別殺人を犯す。

この映画ほど、観ている人の立場<男性(父親)女性(母親)
子供>で、感想が分かれる映画も珍しいんじゃないだろうか。
ヤフーのレビューに「自分の育った家庭とそっくり」という感想
があったのもうなずける。

長男の自殺とか、次男の無差別殺人とか、センセーショナルな
事件の部分を除いてみると、案外、どこにでもあるような家族の
風景、親子のやり取りが描かれているからだ。

葛城清という父親は、本当にそれほどどうしようもない、ひどい
男なんだろうか。「男は、家を建て、一国一城の主として、家族を
食わせていく」ことを最高の価値と考え、それが清のプライドの
拠り所でもあった。男として、夫として、自分はちゃんと務めを
果たしているのだ。それの、どこが悪い、何が間違っている。

「俺が一体何をした」

清のこの言葉は、開き直りではなく、彼は本当に分からないのだ。

そのわけを、とても象徴的に表しているシーン。
それが、リストラされた長男が、行く場所がなくて、父親の店に
顔を出す場面。彼は、失業したことを誰にも言えず、父親にも
「営業の途中で寄った」と嘘をつくのだが、いつも父親が
店番をしている椅子に座る。ほとんど客が来ないさびれた店と
並んだ商品の隙間から見える、ほんのわずかな表の風景。
清は、生涯、たったそれだけの世界の中で生きてきた。この
あり得ないくらい狭い世界で。

葛城清という男の人生を、観る者に一瞬で訴えかける、この場面。
これが映画の凄さであり、面白さだなと思う。

社会が豊かになり、均一なものになるに従って
住宅メーカーのCMに出てくるような「理想の家族」という
イメージが広がった。地域社会の縛りがゆるくなった代わりに
「家族」の呪縛が、家族を苦しめていると言ったら言い過ぎだろうか。
ぶっちゃけ、家族のコミュニケーションって、実は難しいのに。

そう言えば「渇き」という映画の中でも
役所広司さんが楽しそうに演じていた、イカレた刑事のオッサンの
「理想の家族」の幻想シーンが、笑ってしまうくらい凄かった。

「葛城事件」を観て、葛城清のどこがどうおかしいのか
(息子を殺そうとしたことは別として)もう一つピンとこない方は
家族崩壊の可能性があるので、気をつけてくださいね(笑)

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不発弾

「震える牛」「ガラパゴス」が面白かったので
発売を待ちわびていた相場英雄さんの新作。

相場英雄さんは、時事通信社の記者から作家に転身。
記者時代は、相当自主規制して記事を書いていたが
フィクションの世界だったら、何でも書けるというスタンスで
食品や流通、自動車業界などの裏側に迫った。

で、新作の「不発弾」
このところ度々ニュースになる、東芝の「不適切会計」問題と
連動する。正直、私のような低所得層の庶民が
経済関係のニュースを読んでも、よく分からない。
報道されている範囲でも分からないくらいだから
その深層に、なにがあるかなんて、分かるはずがないんだけど。

警視庁捜査二課の警視小堀は、老舗電機企業
三田電機の「不適切会計」に疑問を持つ。
内々に調査を進めた小堀は、三田電機の上層部と
深いつながりを持つ古賀良樹(遼)という男の存在を知る。

大牟田出身で、幼い頃に父親を炭鉱事故で失くした
古賀良樹は、底辺の暮らしから抜け出すために、証券
会社に就職。証券取引所の場立ちから、営業マンへ、
上司に認められて実績を重ね、金融コンサルタントとして
独立する過程で、三田電機とのつながりを深めていく。

バブル期に本業そっちのけで、財テクに奔走した企業や
地方銀行、信金や年金基金は、大蔵省の方針転換で
大きな損失を抱えることになる。損失の隠蔽、飛ばし。
その陰で暗躍する外資系の証券会社。

作者は「これはあくまでもフィクション」と宣言しているから
この小説の、何が真実で、何がフィクションかを考えるのは
読者に委ねられている。

東芝問題はともかくとして、実体経済とは次元の違う
株や証券などの金融経済の凄さと恐ろしさが
ざっくりとではあるが分かりました。
いや、分かったからといって、何がどうなるわけでもない
んですが、金融経済の大きな変動は
巡り巡って、私たちの生活を揺さぶることも
ありますから、メディアとかネットの情報だけ見て
信用していたら、足元すくわれるかも。

「不発弾」は、誰が犯人かを追及する犯罪小説ではなく
それぞれの時代に、それぞれの場所で生きた
人間たちの群像劇でもあります。誰が悪いのか
何が悪いのかを考える以上に、この社会には
個人の力ではどうしようもないものが
うんざりするくらい、たくさんあるなと思いました。

キングコング 髑髏島の巨神

「猿の惑星」にハマってから、お猿さんフェチになったという
わけではないのですが、去年の「シン・ゴジラ」で
「コレジャナイ」感があったので、そのリベンジと
何より監督さんが「地獄の黙示録」が好きらしいということで即決。

監督 ジョーダン・ボート・ロバーツ
出演 トム・ビドルストン ブルー・ラーソン
    サミエル・L・ジャクソン etc

実際に観に行けたのは昨日だったけど
いやあ、面白かった。大満足。
そして、確かに、全てにおいて
「猿版 地獄の黙示録」だった。

「地獄の黙示録」は、私が今まで観てきた映画の金字塔。
あれを超える映画は、生きている間にはもうないと思う。

洋画も邦画も、旧作のリメイクというのは結構あるけれど
オリジナルが面白ければ面白いほど
リメイク版をみようという気にはあんまりならない。

しかし、これは……
「そうか、その手があったか」という感じだった。
映像面だけ見ても、監督が「地獄の黙示録」のどの場面が
好きなのかが、一目瞭然。

もちろん怪獣映画が大好きという人は
冒頭からキングコングが大暴れし
その後も息つくひまもなく、次から次へと
巨大でユニークな怪獣が登場する、大盤振る舞いの豪華さ。

一方私のように「地獄の黙示録」大好きという人間には
いたるところに「地獄の黙示録」に対するオマージュが
感じられて、大感激しました。

あれだけ、世間の評判も、評価も高かった
「君の名は。」にも「この世界の片隅に」にも
アカデミー賞をいくつか取った「ラ・ラ・ランド」みたいな映画にも
ぴくりとも反応しない、お粗末な私の感性ですが
とりあえず「これはテレビのサイズで観たらさみしい」という映画だけは
今年もなるべく映画館で観たいなと思っています。
プロフィール

田中偲

Author:田中偲
50年以上映画を見続けてきた、でもただのミーハーな映画好きの、備忘録的感想文

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