スペードの女王

家にテレビを置かないかわりに、本はずいぶん自由に買って
もらえたので、いわゆる名作とか良書とされるものは
大体小学生の間に、子供向けのダイジェスト版で読んだ。

その中でも特に好きだったのが「スペードの女王」(1834)
ロシアの作家、アレクサンドル・プーシキンの短編。
白っぽい表紙の世界名作全集の中に、短編ホラーばかり集めた
ものがあって「月長石」などと一緒に収録されていたような気がす
るが、定かではない。

工兵士官のゲルマンは、毎夜カルタの勝負が開かれる館の主
トムスキイから、彼の祖母フェドトブナ伯爵夫人が、カルタの必
勝法を知っていると聞かされる。ゲルマンは夫人の館に入り込
み、拳銃を突きつけて必勝の手を教えろと迫るが夫人は恐怖
のあまり亡くなってしまった。

しかしある夜ゲルマンの枕元に夫人が現れ「3」「7」「1」の順で
カルタを張れば勝てるという。必勝の手を知ったゲルマンは、大
勝したチェカリンスキーとさしの勝負に臨み、「3」「7」で連勝する。
最後に「1」を引いて勝ったはずが、その札はスペードの女王で、
目を細めてほくそ笑むその顔は、まさしく伯爵夫人のものだった。

古い外国文学で、死んだ人間が幽霊になるという話は案外少
ない。ぱっと思い浮かぶのは
シェークスピアの「マクベス」とか、ゴーゴリの「外套」とか
「嵐が丘」それにこの「スペードの女王」くらいだろうか。
あっ、ちなみに「嵐が丘」も大好きな一冊なのだが。

ひどい目にあった仕返しに、幽霊になって恨みを晴らすと
いうのは、それこそ日本の怪談話なんかにはごまんとある。
けれどこの「スペードの女王」はただの復讐譚ではない。
幽霊は、交換条件つきでカルタの必勝法を教えてから
ゲルマンを地獄に叩き落す、頭脳派の幽霊なのだ。
短いストーリーの中に、ラストに見事なドンデンがある。
怖いより何より純粋に「すごい、面白い」と思えた。

余談だが、私が学生だった頃は、名作と言われる外国文学
の大人向けの文庫本は、ものすごく読み辛かった。
特にロシアの文学は、人名の長さと登場人物の多さ
緻密な人物や情景の描写が「格調高い」日本語で訳されて
いるのでドストエフスキーなんか、何度となく挫折した。

だから、もしも子どもの頃に、ほとんど超訳とも言える
ダイジェスト版の「スペードの女王」や「外套」に出会
ってなかったら、もしかしたら一生ロシアの文学に近寄るこ
とはなかったかもしれない。
プーシキン
778円
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Author:田中偲
50年以上映画を見続けてきた、でもただのミーハーな映画好きの、備忘録的感想文

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