桜の森の満開の下

「桜の森の満開の下」は坂口安吾が1947年(昭22)年に
発表した小説。

最初は定番通り「堕落論」にはまった。
「人間は生き、人間は堕ちる。そのこと以外の中に
人間を救う便利な近道はない」といった言葉に心酔し
あろうことか、自分にできることでそれを
実践しようとさえした節がある。
十代後半の私に、安吾は一番大きな影響を与えた
文学者だったかもしれない。

そしてとにかく片っ端から彼の小説を読むうちに
行き着いたのが「桜の森の満開の下」だった。

鈴鹿の森のある山に住む山賊の男は
ものすごく美しい女を手に入れる。
その女は、ひどくわがままで、残酷で
「私は山では暮らせない」と、男とともに都へ行き
男に大勢の人を殺して首を取ってこさせる。

まるで人形で遊ぶかのように、人の首で首遊びを
する女。しかし男は、次第に故郷の山が恋しくなる。
山に帰るという男に、女は「もうお前と離れては
生きていけない」とついてくる。そして、男がもっとも
怖れる鈴鹿の森の満開の桜のところに来たとき
女は鬼の正体を現し…。

確かにグロテスクな場面もあるが、ホラーとか怪奇
とか、耽美とか、どういう表現も、今ひとつしっくりしない。
そのわけを私なりに考えてみると、確かに、美女の正体
が鬼であったり、女が遊び戯れる生首が、やがて腐り
果ててと、怪奇的な要素はいくつもあるが、それが
恐怖の本質ではない。

山賊の男が最も怖れるのは人っ子一人いない満開の
桜の森。それの何がそれほど怖いのか。
この物語は、男が求めるものと、女が欲するものの
違い、落差を巧みに描き出す。
その果てにあるものは、満開の桜の下にある冷たい
虚空、あるいは孤独。本当に怖ろしいのは、自分
自身の、人間の内なるもの。
それをこれほど美しい物語に昇華させてあることが
すごい衝撃だった。人生で十本の指に入るほどの
素晴らしい作品との出会いでもあった。

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50年以上映画を見続けてきた、でもただのミーハーな映画好きの、備忘録的感想文

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