魔術

 去年の夏、引っ越しをした。
我が家はとにかく本の多い家で、ピーク時には
私と子どもたちの本を合わせたら千冊以上
あったのではないかと思う。

この三十年の間に二度、大幅に処分した。
子どもたちが小さい頃読んでいた本や
私が子育て中に、息抜きに読むのに買い込んだ
推理小説、父の蔵書だった古本など
子どもに残しても迷惑になりそうな本は
かなり思い切って処分した。

それでも引っ越しが決まった時点で
まだ二百冊くらいは残っていた。
それを、この際断舎利することとした。

まずは選ぶ基準を決めた。
「人生を変えたこの一冊」
それで最終的に五十冊ほどになった。
人生が五十回変わったわけではないのだが
それくらいインパクトがあったものを
手元に残せばいいやと思った。

芥川龍之介の「魔術」は
さすがに自分が読んだのは残ってなくて
子どもに買ってやった、新書版の児童書だ。
もう子どもたちはいらないのだが
単純に自分の好みで残した。

時雨の降る夜、古い小さな洋館。
私は、うわさに聞いた魔術を見せてもらう
ために、インド人の、若い魔術の大家
ミスラくんの家を訪れる。

テーブルクロスから出現する花
ひらひらと室内を飛び回る本
私は、ミスラくんの魔術に感嘆し
自分にも魔術を教えてほしいと頼む。

ミスラくんは、魔術を使うには
欲を捨てなければいけないと条件を出す。
約束して魔術を習った私は
友人とのかるたの勝負で約束を破る。

前に紹介した「スペードの女王」に
よく似た場面も出てくる。
けれど「魔術」は幽霊話や復讐譚ではなく
映画を観ているような幻想小説。

ひと月以上の時間が経ったと思わせる話が
「オバアサン、オバアサン、オ客クサマハ
オ帰リニナルソウダカラ」というミスラくんの
言葉と、再び竹やぶに降る時雨の音で
ほんのひと時の幻だったと分かるラストは
読んでいると、何かしらぞくぞくする。
風邪の引き始めとかいうんじゃなくて
ふっと異世界にワープした時の快感。

学生時代に、鴎外とか夏目漱石も
ひととおり読んだけど
どうも思索的なものはあまり向かないらしい。
「桜の森の満開の下」も、この「魔術」も
一つ一つのシーンが鮮やかに浮かぶ
どちらかといえば、すごく感覚的な小説。
そういうのが大好きというのは
同時進行で観続けた映画の影響なのかは
よく分からないのだが。

芥川 龍之介
626円
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50年以上映画を見続けてきた、でもただのミーハーな映画好きの、備忘録的感想文

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