屍鬼

高村薫さんの小説もそうだが
読んだ後ぐったりなるくらい重量感のある
小説が好きだ。
これもその中の一つ。

小野不由美さんの「屍鬼」
ハードカバーで、上下巻あわせて1000ページ超え。
数えたことはないけど
登場人物は150人に及ぶらしい。

古くは卒塔婆を作っていたことから
外場と名づけられた人口1300人の
山あいの小さな集落。

悪霊を祓う虫送りの夜の夜中に
村に一台の引っ越しトラックがやってくる。
そのトラックは、村へは入ってこず、引き返した
かに見えたのだが…。

西の斜面に建てられた謎の洋館。
やがて村人たちは原因の分からない病で
一人また一人と死んでいく。
これは「起き上がり」と呼ばれる吸血鬼のお話。

村人たちは、小さな不満や軋轢を抱えながらも
ごくごく平凡に暮らしている。
そういう人たちが容赦もなく屍鬼の餌食になる。
村でただ一軒の病院の医師敏夫は
やがて本当の原因をつきとめ、村人たちとともに
屍鬼の首領沙子(すなこ)と対決するのだが
敏夫の幼馴染で、僧侶で小説家でもある
静信はそれを拒む道を選択する。

屍鬼と人間。捕食者と被食者。
共存できない二つの種。
沙子は、この村に屍鬼の楽園を作ろうとした。
それは不可能なことなのに。

これはマイノリティの物語なのだと思う。
「圧倒的な少数であり、例外であり、世界の外に
ある」「神の論理で調和した世界に立ち寄ることが
許されない」社会や秩序から弧絶した生。
彼らが勝利する可能性がないことは
初めから分かっている。

しかしたとえ圧倒的多数の人間や
彼らが信奉する価値観と対峙して
無残に敗北することになるとしても
それでもマイノリティとして生きることの意味を
ぎりぎりのラインまで表現していると思う。

一方屍鬼と対立する人間側は、というと
それはそれで、まあ山ほど色々あるのだけれど
それがあるからこそ
屍鬼という存在が魅力的に思え
屍鬼の側に感情移入することができる。
ホラー度は低いけど、ある意味哲学的。

たくさんの登場人物の中で
イチ押しのキャラは人狼の辰巳です。
沙子が夢見た屍鬼の楽園なんて
できるはずがないと分かっているのに
最後の最後まで、沙子に仕え、守ろうとする。
それは、沙子が自分の宿命に悩み
逆らおうとする生き様が、純粋で歪みが
ないから、綺麗だからだと言う。
静信も、辰巳と同様
自ら屍鬼になって沙子と生きる選択をするんだけど
静信は、性格が屈折しすぎて
ちょっとうっとうしい。

「全てのものは滅びる。意味なんてものは
飛散して消滅する」とうそぶく辰巳のほうが
潔くて好きです。

漫画にもアニメにもなっているようですが
そちらは未見です。


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50年以上映画を見続けてきた、でもただのミーハーな映画好きの、備忘録的感想文

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