江利子と絶対

「ソロモンの偽証」の柏木卓也からの
どうしようもない人つながりで
先日芥川賞を受賞された本谷有希子さんの
「江利子と絶対」

他人とうまくコミュニケーションを取ることが
できない江利子は、高校時代にゴミ袋をかぶって
学校の屋上から飛び降りたあげく引きこもりに。

彼女に手を焼いた両親は、都会で働く姉に
江利子を預けることにした。ある日江利子は
テレビのニュースで、大勢の死傷者が出た
電車の事故を見て言った。
「エリ、これから前向きに生きてくから」

けれど彼女の前向きとは、虐待されていた犬を
拾ってきて「絶対」と名づけ、せっせとホウ酸入り
のおにぎりを食べさせたり、電車に乗り合わせた
ヤンキー風のカップルと大立ち回りをしたり。

江利子の言い草や行動原理は、わがままで
自己中で、一般人には理解不能な領域。
日々真面目に努力して生きてる人が
聞いたら、きっとブチ切れるか、完全スルーか
絶対に真剣に取りあってはくれないような代物だ。

「引きこもってるのにポジティブ。いいとか悪いとか
じゃなくて、なんか、こう、新しいでしょう。いじけてない
ところが人生を大事にしてる感じでしょう?」
江利子の理屈はめちゃくちゃだけど、妙にピュアなのだ。

こういう感覚、つまり自分が生きたいように
生きたいという願い(それが可能かという話は
置いといて)を失くしてしまっている自分って
本当は、なにひとつ実体がない世間とか社会の思惑に
自分をはめこんで生きてるだけなんじゃないかと
ふと思ってしまう。

現代の、特に若者の間に漂うどうしようもない閉塞感
を描いたものは、小説にも映画にもアニメにも
嫌になるくらいたくさんあるけど、その閉塞感を
ある意味、反則技で突き破ったことが、この小説の
魅力なのだと思う。「生垣の女」と「暗狩」は
もっと、もっと突き抜けたものを、と意識されたのか
展開は奇抜だけど、登場人物の心理、感情の面
では「江利子と絶対」よりはやや定番の観が。

けれど、できれば、芥川賞は、この最初の
短編集でこそ取ってほしかったと思える作品集です。

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50年以上映画を見続けてきた、でもただのミーハーな映画好きの、備忘録的感想文

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