邪魔

今放送されているドラマ「ナオミとカナコ」の作者
奥田英朗さんの、初期の作品
「オリンピックの身代金」「最悪」「邪魔」は
どれも、ものすごく面白い。
中でも、私のツボだったのが「邪魔」

所轄の警部補である九野薫は
7年前に身重の妻を交通事故で失ったが
彼は同僚の花村に、ささいなことで執拗に恨まれている。

及川恭子は、スーパーでパートをする平凡な主婦。
夫と子ども二人と、郊外の建売住宅で暮らしている。
ある晩、夫の茂則が勤務する会社で放火事件が発生。
その夜、当直だった夫に、放火の嫌疑がかかる。
一方、恭子が働くスーパーで、労働運動を画策する一団が
パートの待遇改善をエサに、恭子に近づき…。

「ナオミとカナコ」もそうだが
「普通に、平凡に暮らしたい」と願うことが
現代では、こんなにも困難なのかと痛感させられる。
登場人物たちは、まさに坂道を転げ落ちるように
窮地に陥っていく。
何がいけなかったのか、どこで間違えたのか。

「最悪」でも描かれた、社会のいたるところに
仕掛けられた、個人の力ではどうすることもできない
悪辣で陰湿な罠。
しかし恭子は、立ち止まることも
思い悩むこともせず、目の前の危機的状況に
体当たりしていく。立ち向かうというような
ポジティブなやり方でなく、自爆テロみたいなもの。

夫の放火の罪をごまかすために、自分が放火をし
助けようとした九野を刺し
朝日の中を、自転車をこいで、家族からも
それまでの暮らしからも訣別していく恭子を
待っているのは「目眩を覚えるくらいの孤独と自由」

実は「普通に、平凡に暮らしたい」という
その願いこそが、生きていくのには「邪魔」なのだと
言いたげな、このラスト。
これほど、誰もが納得できないオチを書くことの
できる作家さんも、珍しいように思う。

そういう意味では、本気を出せば高村薫さんと
いい勝負かもしれない。
でも、最近の高村さんの小説が、思索の部分が
ほとんどで、事態がほぼほぼ動かないのと比べると
奥田さんの小説は、これでもかというくらい
状況がドラマチックに動いていくので
ハラハラドキドキ、まさに一気読みなのだ。
(あっ、でもドMな読書好きの私は
100ページ読んでも状況が1ミリも動かないという
「新リア王」のような小説を、へろへろになりながら
ものすごく苦労して読むのも大好きなのですが)

「ナオミとカナコ」も、なかなかエキサイティングなんだけど
スーパーの、組織や人間関係の陰湿さとか
はたまたきれいごとを並べる社会運動の裏側とか
広く社会のあり様を組み込んであるので「邪魔」の勝ち。
あと「邪魔」には、ある意味ファンタジーともいえる
要素があって、そこもツボだったのだ。

それと昔スーパーのパートしたことがあるので
いちいち身につまされるのも
この小説にシンパシィを感じてしまう原因なんだと思います。
表の明るさ、華やかさとはまさに対極の
スーパーのバックヤードの、閉鎖的で荒涼とした感じは
ホント独特。あそこでずっと働いたら病む(私だけか)



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田中偲

Author:田中偲
50年以上映画を見続けてきた、でもただのミーハーな映画好きの、備忘録的感想文

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