リップヴァンウィンクルの花嫁

家族に誘われて「リップヴァンウィンクルの花嫁」を観てきた。
岩井俊二監督の「スワロウテイル」は、邦画のマイベストに
入るくらい好きな映画だが、全ての作品を観たわけではない。

「Love Letter」や「四月物語」や「打ち上げ花火」は
観ることは観たが、内容もシーンもほとんど覚えていない。
「リリイシュシュのすべて」は、嫌いではなかったけど
あまりにも世界が閉じていて息苦しかった。
つまり、岩井監督の映画は、合うか合わないかのどっちか。

で「リップヴァンウィンクルの花嫁」
出演は、黒木華、綾野剛、cocco など

私は、観た人が、内容について賛否両論あるとしても
なんかのプロパガンダみたいな映画じゃなくて
色々な受け取り方ができて、見所がたくさんある映画が
面白い映画だと思っているので
これはとてもよくできている映画だと思った。

派遣で先生をしている七海(黒木華)はSNSで知り合った
やはり教員の鉄也と結婚することになるが、親族が少ない
ことを鉄也に指摘され「なんでも屋」の安室(綾野剛)に
代理親族の派遣を依頼する。
しかし新婚早々、夫の浮気発覚かと思いきや、七海自身が
不倫を疑われて、即効離婚する羽目に…。

という怒涛のストーリー展開で、3時間という長さは
ほとんど気にはならなかった。
見所はたくさんあるのだが、一番印象深かったのは
この社会の中での、人間とネットとの関係性。
よくリアルとバーチャルという対比がされるけど
今は、たくさんの人が、実名とは違うHNで
ラインやツイッターをやったり、ブログを書いたりしている。

ネットの世界にも、もう一人の(何十人もいることも
あるんだろうけど)自分がいて、そこで誰かと出会うことで
恋愛とか、結婚とか、仕事とかのリアルに直結する。
運が悪いと、犯罪に巻き込まれて死んだりもする。
もうリアルとバーチャルの境界線はほとんどなく
人は、この世界でこんな入れ子細工のような
訳のわからない、危ういリアルを生きている。

そこがよく分かってなくて、ふわふわ漂っていた七海は
いきなり現実の残酷さ、厳しさにもみくちゃにされる。
電話にすがって「ここはどこですか」と叫ぶ七海が痛々しい。
そんな彼女の水先案内人が、極めて要領よく
リアルとバーチャルのはざまで世渡りしている安室。

そしてお金のために過酷な現実を生きている真白(cocco)
もまた、プライベートではおとぎ話の世界で生き
自らが夢に見たファンタジーの世界で死んでいった。
けれど、自分の夢のために人生の全てを賭ける
真白の過激さは、現代の若者風ではない。
彼女のHNがリップヴァンウィンクルという由来は
その当たりにあるんだろうか。

その3人の、現実なんだか、非現実なんだかという生き様に
正面から「NO」を突きつけるのが真白の母(りりぃ)
娘がAV女優をして大金を稼いでいたことを知って
娘の遺骨の前で自ら全裸になり「裸は恥ずかしい」と叫ぶのだ。
彼女は一生裏も表もないリアルを生きてきた人だから。
そして、その直球勝負の姿を見て、綾野剛クン改心したか?(笑)

世界がこんな風であること、そしてこんな世界で生きる
七海や安室、そして真白に注がれる監督の視線は優しい。
その優しさが、この映画をとても美しくしているように思えた。

ただ、私は、映画がこれだけ素晴らしくても
「ああ、この音楽いいなぁ」とはならず
一番盛り上がるところで、皮膚がざわざわしたので
やっぱりクラシック音楽とはとことん
相性が悪いのだろうということを再認識しました。
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田中偲

Author:田中偲
50年以上映画を見続けてきた、でもただのミーハーな映画好きの、備忘録的感想文

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