日本で一番悪い奴ら

昨年封切られた時から観たかった
「日本で一番悪い奴ら」をオンデマンドで観た。

監督 白石和彌
出演 綾野剛 中村獅童 

北海道警で実際に起きた不祥事
「稲葉事件」をもとにした実話物。
警察不祥事の実話物というと、なにやら
重苦しい話という感じだが、まさかのコメディ。

諸星要一(綾野剛)は、柔道の成績を買われて
北海道警の刑事になる。純粋で正義感の強い
諸星に、先輩刑事は「成績を上げたいなら、裏
社会に飛び込んでスパイを作れ」と教え込む。

おりしも全国の警察が、銃器摘発の実績つくりに
やっきになる中、諸星は次々に拳銃を摘発。
好成績を上げるが、じきに裏社会との付き合いに
必要な資金に困り、自ら覚せい剤の密売に
手を染めていく。

白石監督は「凶悪」もすごくいい映画だったので
かなり期待度が高かったのですが、このネタを
コメディに仕上げたセンスがすごい。

ひと言でいえば「警察=ブラック企業」
成績のためなら、おとり捜査だって、違法行為だって
なんだってやる。拳銃を、関東のヤクザから仕入れて
宅急便で配達。送付先が北海道警って(笑)
国内では買取の相場が上がったので、子分に「ロシア
に買い付けに行ってこい」とか。
どこまでが事実で、どこからパロってるのかは分から
ないけど、なんか全部ありそうに見えるのがおかしい。
そして、諸星の暴走の背後には、警察の行き過ぎた
そしてもの凄く偏った成果主義があるんじゃないかと
暗に匂わせている。

この手の話は、真面目な実話ドラマにすると
何かと横やりが入りそうなんだけど
そうか、その手があったかという感じです。
ただ最近観た邦画のほとんど「そこのみにて光輝く」
「リップヴァンウィンクルの花嫁」「天空の蜂」
「怒り」そしてこの「日本で一番悪い奴ら」と
綾野剛クンが出てて「ちょっと使いまわしし過ぎだろう」と。

まあ彼がこういうキレッキレ感のある役を演じることが
できる俳優さんの一人だということは分かりますが。
でも映画自体がかなり面白かったので満足です。

余談ですが、この映画を観たあとに、佐々木譲の
「制服捜査」という本を買って読んでたら「稲葉事件」
の影響による警察官の大異動で、札幌から志茂別町
の駐在所に転勤になったお巡りさんの話でした。
これって、何かの巡り合わせ?

虐殺器官

完成までに紆余曲折があった作品だが
無事に完成、今月公開になった。
今年初めて映画館で観た映画。

原作 伊藤計劃  
監督 村瀬修功

9.11後、サラエボで手製の核爆弾がさく裂し
サラエボの町が消えた。アフリカやアジアの
開発途上国で起きた内乱は、大規模な虐殺を
引き起こした。しかし、その混乱の背後には
謎のアメリカ人ジョン・ポールの存在が。
アメリカ情報軍特殊部隊の、クラヴィス・シェパ
ード大尉は、国防総省の密命を受け、部隊を
率いて、ジョン・ポールを追う。
プラハ、インド、そしてアフリカのヴィクトリア湖。

「ハーモニー」もそうだったが、原作は一人称なので
主人公の内面、思考や心理が細かく書き込まれている。
映画は、特殊部隊による暗殺という、戦闘アクション
の流れを途切れさせないようにしながら、セリフの
部分に、原作の持つ、その思索的な雰囲気を可能
な限り盛り込むという、そうとう難易度の高いことを
やっているように思われた。

ジョン・ポールが操る虐殺の文法。平和だった国が
わずかの間に混迷を極め、人々が互いに殺しあう
ようになるのは、人間の脳にあらかじめ虐殺の言語
がセットされているから。
一人生き残ったクラヴィスは、アメリカに戻り、大勢の
人々に向かって、一連の事件の真相を、「僕の物語」
を語り始める。

原作で描かれた罪と罰の問題について、映画ではその
ほとんどがカットされていたが「ブラックホーク・ダウン」
のような緊張感のある戦争アクションにするためには
やむを得なかったのではないか。またエピローグの変更
についても、実は作者自身の「エピローグで大嘘をついて
いる」という意味深な発言があって、この「大嘘」が解明
されないと、うかつな結末はつけられなかったとか。
これは私の推測に過ぎないのですが。

ともあれ映画「虐殺器官」は、原作の持つ迷路のような
重層的な雰囲気を伝えつつも、原作を読んでない人でも
SF戦争アクションとしてそれなりに楽しめるように配慮されて
いて、かなり高得点の出来栄えでした。映画を観て、面白い
と思った方は、ぜひ原作も読んで見てください。

チャイルド44 森に消えた子供たち

連続殺人事件物ということで、シリアルキラー好きの私
としてはずっと観たいと思っていた一本。

原作はトム・ロブ・スミス
監督 ダニエル・エスピノーサ
出演 トム・ハーディ ノオミ・ラパス
製作にリドリー・スコットの名前があるアメリカ映画

舞台は1953年スターリン政権下のソ連。
ウクライナ飢饉を生き延びたレオ(トム・ハーディ)は
戦争で功績をあげ、MGB(ソ連国家保安省)の捜査官
になり、美しいライーサ(ノオミ・ラパス)と結婚する。
レオの親友アレクセイの息子の死体が、森で見つかり
アレクセイは、息子は殺されたと主張するが…

すわ犯人捜しかと色めき立ったが、どうもそういう展開
ではないらしい。
なぜなら「犯罪は資本主義の病。理想国家のソ連で連続
殺人はあり得ない」というのが、スターリンの主張であり
社会通念だから。「え”-っ!」という感じだが、そういう
わけで、犯人捜しまでにすごい紆余曲折があった。

ライーサにスパイの容疑がかかり、妻の告発を拒否した
レオは、エリート官僚の座を追われ、地方の下級官吏に
左遷された。その赴任先のヴォルスクで、少年の死体が
発見されて、レオは事件の真相を追求する決意をする。

社会の中心の軸がずれると、私たちが常識と信じている
すべてのことがおかしくなる。さらにそのおかしい状態が
普通になると、かつて普通と思われていたことが間違い
になる。保身のための裏切りや密告が当たり前という
社会は、男女の愛情や信頼の形をも変質させる。

この映画のミステリー性というか、何とも気持ちの悪い
感じは、連続殺人やその犯人像ではなく、殺人をなか
ったものとして容認するような社会のありようと、その
社会に翻弄された人間たちにあった。もしもレオが事件
の解明に動かなかったら、44人もの無残に殺された
子供たちは、すべて事故か冤罪で片づけられていた
わけで、それはそれでとてつもなく怖い。

しかしよくまあ次から次へと、理不尽な苦労を強いられる
レオやライーサに同情しながら観てしまうので、犯人が
わかっても「あっ、そう」という気分になってしまう、ある
意味珍しいミステリーではありました。
映画を作った側も犯人捜しにはさほど思い入れがなさそう
なんだけど、そのあたりいったい原作はどうなってるん
だろうとちょっと興味があります。


死霊館 エンフィールド事件

たいへん遅くなりましたが
今年もよろしくお願いします!

大晦日に、一年の集大成(何の?)ということで
ずっと観たかった「死霊館エンフィールド事件」を観た。

監督は「ソウ」シリーズのジェームズ・ワン
出演 ヴェラ・ファーミガ パトリック・ウィルソン

ロンドンのエンフィールドで起きたポルターガイスト現象を
題材にしている。「死霊館」と同様に、アメリカ人の超常現象
研究家エド&ロレイン・ウォーレン夫妻の体験を描いた実話物。

女手一つで四人の子どもたちを育てているペギー・ホジソンだが
次女のジャネットに異変が起こる。夢遊病のように、起き出して
家の中をさまよい、奇妙な現象を見、老人の声を聞く。
やがて夜中に家具が激しく動くポルターガイストが起こり
ペギーや子どもたち、隣人や警官にもなす術がない。
教会から依頼を受けて、エド(パトリック・ウィルソン)とロレイン
(ヴェラ・ファーミガ)のウォーレン夫妻が、怪異の正体を究明
すべく、ロンドンに向かう。

現代は、科学で説明のできないことは、全て無意味なもの
ありえないこととされている。けれど三が日に大挙して初詣に
出かける人たちは、やっぱり心のどこかで神様を信じている
のだろう。私たちに良いことをしてくれるものがあるんだったら
当然害になる、災厄をもたらすものだって存在するはずだ。
だからこのタイプのホラー映画は、私たちがふだん無いもの
として見ないようにしている世界を、かいまみせてくれる。

透視能力のあるロレインが透視を試みるが、霊の存在は確認
できない。結局ジャネットの自作自演なのではないかという結論
になり、夫妻はホジソン家をあとにするが、帰路ロレインが全ての
真相に気づく。

そして夫妻の前に姿を現す、修道女の姿をしたラスボス。
それはかつて別の事件でも、ロレインの透視に現れた
悪霊で、その後エドがその悪霊に殺される夢も見ていた。
あわや悪夢が現実にというところで、間一髪夫妻は悪霊を
追い払い、約束通りジャネットと彼女の家族を救う。

ロレインが見た夢は、いずれ彼らが対決することになる悪霊の
予知夢だったわけだけど、その話を聞いてエドが描いた悪霊の
絵が、そっくり過ぎて怖い。しかもその絵が、ドーンと壁に飾って
あるのが更に怖い。「実はここから出てきたんじゃないの?」と
思ってしまった。

この映画は、生きるか死ぬかみたいな山場は最後にちょっと
あるだけで、そういう怖さではなくて、日常がどんどん気味の
悪い感じになっていく、そのぞわぞわとした雰囲気がいい。
そしてもうひとつ、実話の持つリアリティをそこなわないために
悪霊は見える人にだけ見えるという設定がよく出来ている。
悪霊とか霊を本当に信じるか信じないかではなくて、映画を
観る時は、いると思ってその世界に向き合って怖がるほうが
絶対楽しいのだ。

あと小道具がいいですね。「死霊館」の、のぞくと霊が見える
オルゴールとか、今回の「へそ曲がり男」の姿が浮かぶ幻灯機
とか、主役に昇格したアナベルの人形とか、夢に出てきそうな
素敵なアンティークの小物がいっぱいです。

「ソウ」の時は知らなかったけれど、今回ジェームズ・ワン
監督が尊敬しているのが、デヴィッド・リンチと「サスペリア」
などを撮ったダリオ・アルジェントだということを知って
自分が、この「死霊館」シリーズの漂わせている雰囲気と
どうして相性がいいのか、ちょっとわかったような気がします。



洋画オールタイムマイベスト

年末で、何かとあわただしい今日この頃
さすがに、一回分のブログを書く時間がなさそうなので
ここいらで「洋画オールタイムマイベスト」をチョイスしてみた。

1 地獄の黙示録(1979)
2 ブレードランナー(1982)
3 エクソシスト(1973)
4 王女メディア(1970)
5 愛の嵐(1973)
6 第九地区(2009)
7 ファイト・クラブ(1999)
8 ルードヴィヒ 神々の黄昏(1972)
9 イミテーション・ゲーム(2014)
10 エンゼルハート(1987)

マイベストに入れてもいい映画は他に
「真夜中のカーボーイ」(1969)
「サイコ」(1960)「シザー・ハンズ」(1970)
「ブルー・ベルベット」(1986)「戦慄の絆」
(1988)など。ベタですが。

「地獄の黙示録」だけは、ぶっちぎりの1位。
私にとっては「これぞ映画、THE映画」という
感じです。
1位から5位までは、おそらくこれからも不動。
6位以下は、圏外も含めてほぼ同率。

「これっ!」と思う許容範囲がかなり狭いので
ど真ん中という映画にはなかなか出会えない。
ちょっとキャパを広がれば「猿の惑星新世紀」とか
「チャッピー」とか「悪の法則」とかいい線いってる映画は
最近の映画でも結構あるのだけれど。

ゲームクリエーターの小島秀夫監督が、インタビューの
中で「映画のベスト10とか訊かれると、どうしても十代
の頃の映画になる。最近良いのを観ていても、そんなに
心がピュアじゃないから、人生の中での順位はだいぶ
後ろに回してしまう」と語られているのを読んで、心から
「なるほど、そういうことか」と合点がいきました。

十代から二十代にかけて出会った映画に強烈な
インパクトを受けて、その後は「あんな感じの映画」を
ずっと探し続けていくのでしょう。
来年も面白い映画に出会えますように!
一年間ありがとうございました!よいお年を(*^_^*)
プロフィール

田中偲

Author:田中偲
50年以上映画を見続けてきた、でもただのミーハーな映画好きの、備忘録的感想文

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